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岡山地方裁判所 平成6年(ワ)1157号 判決

原告

仁科有美子

被告

藤井淳司

ほか一名

主文

1  被告らは、原告に対し、各自金三八九〇万七六五一円及び内金三六六〇万七六五一円に対する平成五年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを三分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

4  この判決第1項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

1  被告らは、原告に対し、連帯して金六〇一六万三〇四〇円及びこれに対する平成五年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項について仮執行宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二主張

一  請求原因

1  交通事故

日時 平成五年六月一三日午後三時二五分頃

場所 岡山県笠岡市神島三九七六番地先県道上

加害車両 普通乗用自動車(福山五五ろ六二二〇)

右運転者 被告藤井

被害車両 普通貨物自動車(岡山四〇を二三七八)

右運転者 仁科順江

右同乗者 原告

態様 加害車両と被害車両が正面衝突

2  責任原因

〈1〉 被告藤井

被告藤井は、加害車両を保有し、自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条の運行供用者責任を負う。さらに、被告藤井は、本件事故について制限速度遵守及び安全確認進行義務を怠り、道路中央線をはみ出して進行した過失があり、民法七〇九条の不法行為責任を負う。

〈2〉 被告会社

被告会社は、本件事故当時、加害車両について被告藤井を被保険者とする対人賠償責任保険契約(保険金額無制限)を締結しており、本件事故について、被告藤井とともに損害賠償責任を負う。

3  権利侵害

原告は、本件事故により右大腿骨骨折及び顔面切創等の傷害を受け、笠岡第一病院に平成五年六月一三日から同年一二月三日まで入院(一七四日間)し、右下肢訓練を受けながら同月四日から平成七年四月一一日まで通院し、髄内釘抜去、再挿入手術のため同月一二日から同年五月二四日まで入院(四三日間)し、同月二五日から平成八年一〇月一〇日まで通院し、髄内釘抜去手術のため同月一一日から同月一八日まで入院(八日間)し、他方、川崎医科大学付属病院に平成五年九月一日から平成六年一月一三日まで通院した。

原告は、平成六年一月一三日顔面外傷後瘢痕及び拘縮に関して症状固定の診断を受け、自賠責後遺障害等級七級一二号の認定を受け、右大腿骨骨折に関しては治療後右下肢と左下肢に約二・五cmの脚長差が残つた。

4  損害額

〈1〉 入院付添費 一〇五万五〇〇〇円

〈2〉 入院雑費 二一万九〇〇〇円

〈3〉 通院交通費(川崎医科大学付属病院)二万円

〈4〉 休業損害 四二万〇七六二円

〈5〉 逸失利益

a 平成七年四月一二日から同年一二月三一日まで 二七九万八九八二円

b 平成八年一月一日から六七歳まで 三九一〇万六八九六円

〈6〉 賞与減額分 四四万二二〇〇円

〈7〉 付加給喪失分 六万〇七八〇円

〈8〉 慰謝料(請求額二二九九万二〇〇〇円)

a 入通院分 三〇〇万円

b 顔面醜状痕(七級一二号) 一〇〇〇万円

c 下肢短縮(一三級九号) 四〇〇万円

d 下肢醜状痕 六〇〇万円

〈9〉 弁護士費用 四〇〇万円

5  填補額 一〇九五万二五八〇円

6  結論

よつて、原告は、被告らに対し、連帯して損害残額六〇一六万三〇四〇円及びこれに対する本件事故の日である平成五年六月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1は認める。

請求原因2〈1〉は争い、〈2〉は認める。

請求原因3は知らない。なお、平成七年四月一二日以降の髄内釘抜去、再挿入手術等の治療については医療ミスにより生じたもので、本件事故とは因果関係がない。

請求原因4は争う。なお、原告の顔面醜状は化粧により殆ど目立たないから、これを理由とする労働能力の喪失はなく、逸失利益は生じない。

請求原因5は認める。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  被告藤井

甲第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故は、被告藤井が加害車両を運転中、センターラインを越えて対向車線に進入した過失により惹起されたものであることが認められ、これによれば、被告藤井は、本件事故について民法七〇九条の不法行為責任を負う。

2  被告会社

請求原因2〈2〉は当事者間に争いがない。

三  権利侵害

甲第二、第三、第八ないし第一一号証、第一四ないし第一七号証、第一九、第二一、第二三号証、乙第三、第四号証、原告本人尋問の結果、調査嘱託の結果(笠岡第一病院及び住友海上火災保険株式会社)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告(女子、昭和四三年四月八日生)は、本件事故(当時二五歳)により、右大腿骨骨折、顔面切創(頬部)、下顎切創、口唇切創等の傷害を受け、笠岡第一病院に事故当日である平成五年六月一三日から同年一二月三日まで入院(一七四日間)し、右大腿骨骨折部の髄内釘固定手術等の治療を受け、同月四日からリハビリ等のため通院し、この間、同年九月一日から川崎医科大学付属病院形成外科に通院し、顔面外傷後瘢痕及び拘縮について治療を受け、平成六年一月一三日症状固定と診断され、顔面瘢痕及び拘縮(右頬部、左頬部の線状痕、膨降状瘢痕などの醜状癒痕、三×七〇mm、二・五×二五mm、一・五×八mm、二×七mm、二×一四mmが二つ、二×一二mm、二・五×三五mm、一・五×一四mm、一・五×二五mm、二・五×一五mm)、右膝瘢痕七×一二mm、一六×六五mm、五×三三mm、五×一〇mm、左膝瘢痕一三×三〇mm、七×一四mm、一五×二〇mm、二・五×二五mm、五×五〇mm、右大腿部手術後瘢痕一二×二五五mm並びに顔面挫創に伴う歯牙破折の後遺障害が残り、自賠責により後遺障害等級七級一二号「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」及び一四級二号「三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」に該当するとして併合七級の認定を受けた。右大腿骨骨折については通院を続けていたが、痛みがあり、歩行困難な状態が続いていたところ、平成七年四月一一日激痛があり、同月一二日笠岡第一病院に再入院し、右大腿骨骨折部分の再骨折及び挿入髄内釘の破損が認められ、髄内釘抜去、再挿入の手術を受け、同年五月二四日まで入院(四三日間)し、同月二五日から平成八年一〇月一〇日まで通院し、髄内釘抜去手術のため同月一一日から同月一八日まで入院(八日間)した。右大腿骨骨折部の再手術により左右の脚長差約二・五cmの後遺症(一三級九号相当)が残つた。

原告は、高校卒業後昭和六二年四月一日中井證券株式会社笠岡営業所に就職し、勤務を継続してきたが、本件事故による受傷の治療のため長期欠勤を余儀なくされ、平成六年に入つても復職のめどが立たないため、会社の意向により退職せざるを得なくなり、同年二月二八日退職した。

以上のとおり認められる。

なお、被告らは、平成七年四月一二日以降の髄内釘抜去、再挿入手術等の治療については医療ミスにより生じたもので、本件事故とは因果関係がない旨主張するが、仮に右髄内釘抜去、再挿入手術等の治療が医療ミスであつたとしても、本件事故の治療の過程で生じたものであることにかわりはないから、因果関係を否定することはできない。

四  損害額

1  入院付添費 九万円

乙第三号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告の入院中は母が終始付き添つたことが認められるが、医師により付添看護を要する旨認められた期間は事故当日の平成五年六月一三日から同月三〇日までの一八日間であつたことが認められるところ、親族の一日当たりの付添看護費は五〇〇〇円と認めるのが相当であるから、損害としての付添看護費は右五〇〇〇円に要付添日数一八を乗じた九万円と認められる。

2  入院雑費 二二万五〇〇〇円

原告が本件事故に起因して二二五日間入院したことは前記三認定のとおりであるところ、一日当たりの入院雑費は一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、右入院期間の入院雑費合計は二二万五〇〇〇円と認められる。

3  通院交通費(川崎医科大学付属病院) 二万円

甲第三号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は笠岡第一病院に入院中である平成五年九月一日から平成六年一月一三日まで三回川崎医科大学付属病院形成外科に通院したことが認められ、右大腿骨骨折を負つていたことからして、タクシー利用はやむを得なかつたものと推認できるから、その通院費用は二万円を下らないものと認めるのが相当である。

4  休業損害(賞与減額分及び付加給喪失分を含む) 七三三万四二八二円

前記三認定のとおり、原告は顔面瘢痕及び拘縮について平成六年一月一三日症状固定の診断を受けたが、その後も右大腿骨骨折部分の再骨折及び挿入髄内釘の破損により、再入院して髄内釘抜去、再挿入の手術を受け、退院後も通院し、平成八年一〇月一一日髄内釘抜去手術のため再々入院して同月一八日退院したものであるから、原告の本件事故による傷害について全体的に症状固定状態となつたのは同年一月末日頃と認めるのが相当である。

甲第一二ないし第一七号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は事故の翌日である平成五年六月一四日からの欠勤について同年一二月一八日までの給与の支給は受けたが、右欠勤によつて賞与四四万二二〇〇円の支給を受けられなかつたほか、付加給六万〇七八〇円の支給を受けられなかつたこと(同年一年間に受領した給与賞与合計は二七一万八五〇〇円)、その後は給与の支給を受けられず、退職を余儀なくされ、治療のため症状固定の平成八年一月末日まで再就職もできず、収入はなかつたことが認められる。

そこで、平成五年六月一四日から平成八年一月末日までの休業期間の損害を求めるに、平成五年六月一四日から同年一二月一八日までに失つた賞与及び付加給の合計五〇万二九八〇円のほかに、同月一九日から症状固定の平成八年一月末日まで(七七四日間)に失つた給与賞与合計六八三万一三〇二円(少なくとも平成五年一年間に得られた筈の推定年収額三二二万一四八〇円〈受領した額二七一万八五〇〇円に失つた賞与及び付加給五〇万二九八〇円を加算したもの〉を年間日数三六五で除し休業期間日数七七四を乗じて得たもの)が存することになるから、その合計は七三三万四二八二円と認められる。

5  逸失利益 二六八九万〇九四九円

原告の全体的な症状固定と認められる平成八年一月末日(当時二七歳)の翌日以降の後遺症による逸失利益については、前記三認定の原告の後遺障害の部位内容程度(特に後遺障害等級七級相当の顔面醜状及び同一三級相当の脚長差)に加えて、原告が若い女性であることから今後の就労についてもその内容や意欲等に深刻な制限を受けることが予想されることなどに照らすと、その労働能力喪失率は稼働可能年数四〇年(二七歳から六七歳まで)のうちの当初の二〇年間については労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号労働能力喪失率表七級相当の五六パーセントを下らないものと認め、後の二〇年間については一三級相当の九パーセントと認めて算出するのが相当と解されるから、その逸失利益額は、少なくとも前記平成五年の推定年収額三二二万一四八〇円に当初の稼働可能年数二〇に対応する新ホフマン係数一三・六一六を乗じて更に労働能力喪失割合として〇・五六を乗じた二四五六万三六五六円と、右年収額に全体の稼働可能年数四〇年に対応する新ホフマン係数二一・六四三から当初の稼働可能年数二〇年に対応する新ホフマン係数一三・六一六を減じた八・〇二七を乗じて更に労働能力喪失割合として〇・〇九を乗じた二三二万七二九三円との合計額二六八九万〇九四九円と認められる。

なお、被告らは、原告の顔面醜状は化粧により殆ど目立たないから、これを理由とする労働能力の喪失はなく、逸失利益は生じない旨主張するが、前記認定事実によれば、原告の顔面醜状は化粧による労働能力の回復を期待し得る程度を超えているものと認められ、採用しがたい。

6  慰謝料

〈1〉  入通院分 三〇〇万円

前記三認定の傷害の部位程度、入通院の期間、経過状況等を総合考慮すると、入通院慰謝料は三〇〇万円と認めるのが相当である。

〈2〉  後遺障害分 一〇〇〇万円

前記三認定の後遺障害の部位内容程度等を総合考慮すると、後遺症慰謝料としては一〇〇〇万円と認めるのが相当である。

7  合計 四七五六万〇二三一円

五  填補額 一〇九五万二五八〇円

請求原因5は当事者間に争いがない。

六  弁護士費用

本訴の内容、審理の経緯、認容賠償額等を総合考慮すると、弁護士費用は二三〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

以上によれば、原告の請求は、被告らに対し、連帯して前記四7の損害合計から前記五の填補額を控除して前記六の弁護士費用を加算した三八九〇万七六五一円及びうち弁護士費用を除く三六六〇万七六五一円に対する本件事故の日である平成五年六月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言の申立について同法一九六条をそれぞれ適用し、仮執行免脱宣言の申立は相当ではないから却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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